十年一昔
当時、私はアメリカの大学に通っていた。
いつものように起きて、テレビをつけて、コーヒーを入れていると
トレードセンターに飛行機が突っ込む映像が流れていた。
どこかのハリウッド映画が、模型か何かを使って撮影したのかな?と最初は思った。
全く、現実味がなかった。
ボリュームを上げて、キャスターが事実を報道しているのを聞いて
急いでルームメートを起こしに行った。
国際電話で実家に電話し、家族に無事を伝えた。
恋人に電話しようと思ったけど、電話はどこにかけてもつながらなくなった。
真面目な学生だったので、ちゃんと大学には行った。
キャンパス内は人が少なく、講堂では追悼儀式のようなものが行われていた。
休講になったクラスも多かったようだ。
その日受けるクラスも、教授が最初の10分ほどテロ事件の話をして休講になった。
しばらくキャンパス内は慌ただしかったり、重苦しかったりしていた。
そして私の町でもイスラム系の人に対するヘイトクライムが発生していた。
命の危機を初めて真近に感じた時期だった。
一度、日本に帰国したらアメリカにはしばらく戻ってこれないという噂もたった。
そのせいか、当時付き合ってはいたけど、終わりが近づいている気配を感じていた恋人からプロポーズされた。そして断った。
あれからもう20年も経つのか。
911から約10年後に東北大震災が起こった。
私は東京にいた。
この時も、私が一番最初に電話をしたのは恋人ではなく父の携帯電話だった。
911の時、電話がつながらなくなったことを思い出して
一番、私の無事を伝えたい人に電話した。
そして10年後は、このコロナだ。
父が亡くなって、私は毎週母に電話している。
家族の無事を知るため、私の無事を知らせるため。
911の時、大事な人と明日も話せるかわからない、と意識し始めたよく覚えている。