しまんちゅの日記

~映像翻訳と映画と沖縄~

当たり前と言われるものと闘う

ソニータ

10歳の頃、アフガニスタンからイランへと逃れた少女ソニータ。母は兄の結納金を得るため、16歳になったソニータを無理やり知らない男性と結婚させようとする。ソニータは同年代の女の子たちが強制的に結婚させられる慣習への悲しみや怒りをラップに込めて歌い始める。

 

「女は歌を歌ってはならない」

 

は?となった。そんな国あるんだ、と。

そしてもうひとつ驚いたのが、10代の女の子たちの会話だ。

”お金を返せば離婚できる。”

”夫に殴られたって。”

”結婚にいくら払ってもらった?”

”値段は花嫁が持参金を払うかどうかってよ。”

 

 60~80%の女性が親が決めた相手と結婚させられる現実の中で

彼女たちは生きている。

自分の値段が結納金としてつけられる。

公に行われる人身売買だ。

それが当然だから、という慣習だとしても

彼女たちに悲しみや怒りがないわけじゃない。

慣習と闘う力と術がないのだ。

そんな国で16歳のソニータ

望まない結婚を強いられる少女たちの思いを歌にして闘うことを決める。

 

とはいえ、慣習や常識と闘うことは難しい。

難民ならばなおさらだ。なにもうまくいかない。

とうとう母親によって、アフガニスタンに帰ることになった時 

ソニータが保護されている施設の職員が彼女に言う。

 

「あなたには何ができる?なにも?
大切なのは解決しようとする意志よ。

悲観せずにあなた自身がこの問題に立ち向かうの。

私たちでは無理。」

 

どうしようもない状況はある。

けれど、本人が諦めてしまったら本当に終わり。

実際、ソニータが行動を起こしたことで状況が動きだしていく。

正直に言うと、

このドキュメンタリー映画がなければ彼女の人生は別のものになっていたと思う。

 故郷の国の大人ではなく、他国の大人たちが彼女を助けてくれる過程や

母親に半ばウソをついて国を出る姿を見ていると、やはり壁が大きいと思った。

 

ソニータのラップは

親への愛と怒りが入り混じった言葉を紡いでいて胸が痛くなる。

慣習と親との間で、本当に愛はあったのか?と親からの愛を疑う。

親への感謝の気持ちはあるけれど、

結婚しないと生きていけない社会への批判とで葛藤している。

アフガニスタンの女の子たちは口を閉ざして我慢してきたことなんだろう。

女が歌うことを禁じられた国で、彼女は歌った。

 

 印象的だったのは、

彼女は眠りに落ちそうな時でも

カメラの前ではスカーフ(ヒジャブ)を外さなかった。

ソニータは自国のすべての慣習を否定しているわけではないのだ。

それは大事だと思った。そうじゃないと、自分の故郷を嫌いになってしまう。

 

戦争との闘いかと思って見た映画が慣習との闘いを見せてくれた。

日本にもいろんな慣習はある。

私の故郷にも多くの慣習があり、私自身もそれを重んじている。

でも、本当にそれが自分の生き方を否定していないか?

当たり前なことって本当に当たり前なのか?と考えさせられる映画だった。

 

ソニータ

サンダンス映画祭2016 ワールドシネマ部門グランプリ&観客賞ダブル受賞》

ほか受賞多数

募金つきオンラインシアター

UNHCR WILL 2 LIVE Cinema 2020

【開催期間】2020年11月01日(日)~12月10日(木)

 

unhcr.will2live.jp