しまんちゅの日記

~映像翻訳と映画と沖縄~

なくなったものを思い出す

10年以上前、三軒茶屋にある古い映画館によく通っていた。

劇場公開中の最新映画ではなく、毎週、館長の趣味で選ばれた映画が2本立てで上映されていた。

今でいうレトロな雰囲気で、客の入りも少なくあまり若い人は見かけなかった。

とにかく映画が見たい私は、家から1番近く安い値段で2本見ることができ、自分の知らない映画を知る事ができるこの場所は天国だった。

楽しいときも、悲しいときも、寂しいときもここで映画を見ていた。

近くのサミットでお酒を買って、それを飲みながら映画を2本見て(なんだったら1本目をもう1度見て)、映画館の外に出るともう夜になっていて、「とんがらし」というおばちゃんが1人でやっているカレー屋さんで夕ご飯を食べて帰る。

そうやって1人の時間を過ごすのが好きだった。

 

その映画館でキム・ギドク監督を知った。「サマリア」と「弓」の2本立てだった。

韓国、と言えば「冬のソナタ」を何話か見て、韓国人ってなんて感情の起伏が激しい人たちなんだ。。という印象しか残らなかった。

その韓国人監督が作った映画かぁ、というくらいの軽い気持ちで観た。

サマリア」は最初は女の子たちが可愛い、という軽い感じで見ていたのだが

ゴロゴロ転がっていく展開と、それによって雪だるまのように大きくなっていく感情とに血と涙が混じっていって。。

それを食べた私は、なんだか胃が重く冷たくなった。

次の「弓」は、不思議な世界で、不思議な人間関係の中で、普遍的な人間の欲みたいなのを見せられた気がした。

園子温監督となにか通じるものがあるなぁ、と感じた。

 

ファーストタッチがとても印象深かったので、それからもキム・ギドク監督の作品は見続けた。いつでも腹にドンとのしかかるような気分を与えられる作品を撮って、ある意味期待を裏切らない安心感があった。

 

 

三軒茶屋のあの映画館がなくなり、そしてキム・ギドク監督がコロナに感染して亡くなった。

寂しいなぁ。